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20072月7日 めげるな(わがままな)若人(自衛隊編補足版1)

 自衛隊での話が少々不足なので追加します。
 自衛隊は入隊するとまずは半年間、新隊員教育課程を受ける事になる。
 まずは基礎を約3ヶ月、その後専門分野を約3ヶ月間だ。

 青二才飯倉は富士の裾野の普通科教導連隊で基礎過程(前期教育)を受ける事となった。
 ここではまずは日常の雑事を覚えるのだ。

 朝6時に起床ラッパが鳴る。速攻で起きてササッと服を着たら点呼となる。要は所定の人間が居るかを調べるのだが軍隊的組織では人間は交換可能なパーツでしかないのだから決った数がきちっと揃っているかを確認するのは肝心な事だ。しかもそれを簡単確実に知るには点呼という非人間的な手段が最も適している。よし!
 ベットメイキングを行って隊員食堂に朝飯に。もちろん新米は整列して行進となる。部品になりきるには徹底的に自らが部品でしかないとを認識させる事だ。よし!

 隊員食堂のメニューは一種類。だらだら並んでトレーに取り最後に飯をどんぶりによそるのだ。おかずの量は自分では調整不能だが飯の量は自分で決めるられる。自分のハラと相談して適当な量を盛ればいいモノをこの飯を捨てる輩のなんと多い事か。なさけない。ちなみに自衛官というのはどちらさんも激しい運動をしていると思われがちだがこれは間違いだ。何度も言うが自衛官は軍人というよりかは役人なので一日机に座って5時になるのを待っているだけの人材(人罪?)もしこたま居る。
 飯を食ったら教練だ。いわゆる気を付けー!前へならえー!とか、右向けミギー!とかのアレだ。人間機械化なのだがたしかに必要な訓練だ。戦場で右向けと言われたらさっさと右を向いて、突撃ーと言われたら突撃してもらわないと事が全く進まない。いちいち個人がそうすべきか否か判断されたのでは困るのだ。
 会社の新人研修で体験入隊をさせる会社があるがそれらの会社でも兵隊の様に思考が止まった機械が必要なのだろう。生産性が低そうな会社だな。

 一応5時で仕事は終わりという事になっているが実際にははそうは問屋が卸さない。洗濯、掃除、靴磨き、階級章や名札を戦闘服に縫い付けたり制服のバックルを磨いたりと雑用が沢山だ。ここで覚えたアイロンがけはいまだに自信有り。軍隊はスタンドアローンで動けるのが基本だから何でも出来ないといけないのだ。このところは映画「愛と青春の旅立ち」を見てくれたまえ。
 宿舎はボロい。平屋で木造。2段ベットがずらりと並んでビンボウ臭くてむさ苦しい男所帯だ。この雰囲気はキューブリックの「フルメタルジャケット」が参考になると思う。
 宿舎のすぐ横には戦闘訓練所が有る。ここでほふく前進とかをやるのだ。実は飯倉はほふく前進が得意だった。なんだか早い。ゴキブリ君と呼んでくれ。たぶん手足が長めだからだろうが64小銃を持ったままシャカシャカシャカと地べたを這いずり回る。
 ほふく前進と言えばライフルを両手で持って肘と膝で前に進む物と多くのひとが思っているが実はほふく前進には第一から第四まで有る。詳しくは書かないが皆さんが知っているのは第三だ(ヘー)。
 第四ほふくで敵の直前まで迫ったら銃剣を装着して突撃準備に入る。

 班長の「突撃ー!」の命令とともにワー \(^-^)/と叫びつつ敵に見立てた柱に銃剣を刺すのだ(やってらんねー)。
 一発で服が汚れるので洗濯&アイロンがけとなる。つまんねーめんどくせーくだらねーetc etc etc.

 行軍もぼちぼち。30kmとかのたいした距離でもないのだが小銃や背嚢を背負って富士の火山灰の歩きにくい道を行くので運動不足だったやつなどはあっさりへばる。
 50分歩いて10分休憩のパターンなのだが2回目の休憩辺りからキレるやつがでてくる。普段いい子ヅラしたのがあっさりキレるので本性というのはこういう時に現れるのだなと知る。これは実に勉強になった、人間というのは普段は仮面をかぶっているがいざピンチになると本性を現すのだ。だから本当のその人を知りたかったらピンチな状況に置いてみる事だ。普段は想像もできない仮面の内側を見ることができるだろう。

 戦闘装備のままで長距離走らされる事も有るのでこれまた一興。へばったやつを引きずってでも最後まで連れて行くので体力が無いのはマジでボロボロになっている。普段から威張り腐ったデブが居たので横にスッとよって携帯エンピ(シャベル)持ってやろうか?とささやいたらちらりとこっちを見てエンピをよこした。これ以降こいつは青二才飯倉には難癖をつけなくなった。勉強になるなぁ〜。駐屯地正門に到着した時にはエンピを5〜6も両手にもつことになって自身の基礎体力を確認。よし!
 座学もあるが眠いので省略。適性試験は笑えた。幼稚園のお受験の方がよほど難しい。電気という試験項目が有るのでなんじゃらホイと思ったらコンセントとプラグを線で結ぶ物だった。まさかなんらかの引っかけ問題かと真剣に悩んだのは飯倉だけか?

  実弾をぶっ放すまでは入隊から二ヶ月ほどしか要さない。実はお役所自衛隊では射撃の腕など無くても良い事でとにかく規定の実弾射撃を行ったという事になっていれば良いのでどうでもいいという雰囲気がムンムンに漂っている。
 まあ実際そうだろう今時の戦闘で射撃の腕が戦果に影響するなんて事はほとんど無い。とにかく楽しもうじゃないか。はっはっはー!
 予算の多くが天下り先に垂れ流しになっている自衛隊では射撃訓練のタマに使える予算がカツカツだ。64小銃のマガジンには20発装填できるがくれるのは10発程度。つまんねーつまんねーつまんねー!チビチビ撃って訓練を終わる。
 擲弾発射も経験、一発だけ。もっとやらせろー!

 というわけで富士の裾野で無駄に3ヶ月をすごした青二才飯倉は32連隊に転属となる。ここでの同期は100人以上居たが転属はほんの数人。全員親が自衛官で楽していい思いできる部署に移っていった。まあこんなもんかな。

 家族親戚に全く自衛隊絡みのいない青二才飯倉は貧乏くじの普通科(歩兵)連隊に転属なのよ。
 すぐに都心の市ヶ谷に行けるかと思えばそうではなく新隊員教育課程後期は第一空挺団の有る習志野へ。ここでの3ヶ月は暑さとの戦いだ。だいたい7月から9月のどうしようもなく暑い3ヶ月をここで過ごしたのだからたまらない。さらに御殿場の涼しさと違って習志野の演習場は蒸し暑い。

 後期課程は専門の訓練に入るのでいよいよマシンガンを撃てるようになった。マシンガンというとアクション映画に出てくるような手に持ってバンバン撃っている物を想像しがちだがあれらはマシンガンとは言わない。映画やドラマに出てくるのはアサルトライフルをフルオートモードで撃っているかサブマシンガンという拳銃弾を連射できる銃の場合がほとんどだ。詳しい事はまたまた割愛する。

 機関銃でイメージしやすいのはスタローンの「ランボー」一作目だろう。ベルト給弾でごっついアレだ。映画では筋肉ムキムキのスタローンが一人で暴れ回るが実際には機関銃手と弾薬種の2人で運用する物だ。基本は脚使用伏せ撃ち。手に持って撃つことも可能だが脚を使って地面に置いて撃つのが普通、というか手に持って撃ってもどうせ当たらない。

 で、

 幸せだ。幸せというのはこういうことを言うのだろう。

 ドバドバと音速を超えて発射されるライフル弾。ボロボロ散らばる薬莢。いい、良いではないか!
 しっかし入隊前に想像していた物とはかなり違う。撃っている最中は振動がすごいのは想像していたがまずは前がマルっきり見えなくなる。撃った直後もガスで前など見えない。しかも的は200mも先だ。習志野は室内射場なので風も無くガスが固まったままだ。全く分かっていないまま撃っているのだがそのうち当たっているか否かがなんとなく分かるようになる。
 肝心なのは一発撃つ事によって起こる振動で体も銃もずれるので次弾の発射までに前の位置に戻っていれば良いのだ。これを実際にやろうとすると骨格を意識して骨と筋肉でうまくリズムを取ってやれば良い事に気が付いた。これさえ出来れば初弾さえ的の真ん中に当たれば続く弾はその周りに集中するので高得点になる。
 ところがどっこいあまり当てすぎるのも考えものだ。適度に外してダメさ加減を演出しておくのが役所をうまく泳ぐ方法だ。成績が良くても昇進する訳でも無し適当なタイミングでミスっておく方が受けがいいのだ。
 ほどほどの成績で新隊員教育を修了した飯倉は市ヶ谷駐屯地に。隊舎は市ヶ谷台の4階。新宿の高層ビルがばっちり見える。距離にして4kmほど。重迫撃砲の射程内だ。まあどうでもいいが。

 さて、新人なら誰しも先輩の行動を見て職場での物事を判断していくだろう。ところがどっこいここ自衛隊ではあまり通用しない。
 まずは肝心要の演習での出来事だ。

 部隊に配属されて数日後には連隊検閲という大きな演習に連れて行かれる事となった。
 市ヶ谷駐屯地では演習は出来ないのでもっぱら富士のお山に通称3トン半というトラックに資材、武器等一式積んでえっちらおっちらお出かけとなる。右も左も判らない青二才飯倉は言われるがままに準備をして決められた物を持っていざお山に。
 お山に着いたら整列だ。演習前に連隊長からのありがた(めいわく)なお話がダラダラと続く。

 一人二人と立派な先輩方が貧血で倒れていく。大丈夫なのか、日本の国防は???

 演習は状況(本番)が7日間続いた。運悪く台風接近でほとんど雨天、防御演習なのだが簡易テントのみで過ごす事となる。演習中という事は戦争中という事なので火など起こせるわけもなく服は乾かせない。全身濡れたまま7日間を過ごすはめに。飯倉だけでなく先輩方もぬれねずみだ、良いのかこれで??
 常識から言って一週間も濡れた服装でいれば風邪を引いて当たり前だが演習中は気が張っているからか風邪をひかない。人体とは不思議な物だ。
 市ヶ谷に帰るとどっと風邪ひきが大量発生する。
 休んじまえばどうって事無い先輩方と違って大学生を兼任している青二才飯倉はそうもいかない。風などひいてる場合ではないのだ。

 これに懲りた青二才飯倉は個人的にハイテク武装で挑む事になる。なんとこれは今から20年ほども前の話だが当時からゴアテックスもシンサレートもあったのだ!
 しかし実はこれは反則。自衛官たるもの決められた装備を守らなければいけない。抜け駆け禁止で死ぬときは一緒ってことだろうが安月給で体に悪い事をさせられるのはごめんだ。

 まず富士のお山は寒い。あたりまえだ東京のど真ん中から標高の高いノッパラにくれば寒いに決っている。
 富士の演習場に着いたとたん総員震える。

 バカだ。

 飯倉も震えるフリをする。日本人の美学。おつきあいだ。

 検閲も入るので適当なタイミングで用意しておいた秘密兵器をインストールしていく。
 下着は石井スポーツでゲットした登山用。このころはカーキー色の物が無く黒も無いのでしかたなく紺でごまかす。
 マガジンポーチ(弾を入れる)にはカロリーメイトやあめ玉など食い物を。手袋は支給された軍手ではなく私物の皮手。この方がケガが無いのだ。
 靴下はPXでゲットした厚手のもの。ジャングルブーツ内には足に合わせた中敷を入れる。
 首には何らかの防寒策をしたいのだがあまりやるとにらまれるので頃合いを見計らって迷彩のマフラーを巻く。状況開始後は皆さん自分の事で手一杯になるので多少変な事をしてもOK!だ。
 カッパはカーキー色のゴアテックスカッパがあったのでそいつを検閲後に約立たずの管品と取り替える。当時はこのカッパが3万円くらいして財布の方はくるしかった。それでも体を壊すよりかはよほど良い。
 気付のウイスキーはサントリーレッドのポケット瓶。64小銃用マガジンポーチにちょうど収まる。
 防御演習の時にはたこ壷さえ掘っちまえばあとは暇だ。夜警後のお楽しみにおでんカンやらオイルサーディンやらをスタンバイ。標高高く気温も低いのでストーブはオプティマス8Rというホワイトガソリン仕様のどうやっても壊れそうにないやつをスタンバイ。確実に熱々のつまみで晩酌を楽しむ。
 前には御殿場の夜景、空には満天の星空。イヤホンタイプのポケットラジオ(今のiPodくらいの大きさ)からはABBAとかが流れちゃったりして演習中とは到底考えられないような事になっている。

 隣のたこ壷では晩酌の用意の無い大先輩が情けない面を下げてがたがたと震えている。

 とまあ こんな具合に工夫次第で苦しいはずの演習もピクニックのようになるのです。

 何か不具合があったら誰かが良くしてくれるのを待つのではなく自ら良くしていきましょう。
 ふつうだとみんなで良くしていきましょうと言い出したりするんですがこれだと足並みそろわないでしょう。まずは自分が良い思いしちゃえば良いんですよ。そうするとまわりがそれ見て真似するから自然と広がっていく。これって物事変える良い方法だと思います。

  話はまだ半ば、次回もこうご期待。

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